革製品に使う糸について
革製品の糸について気にされたことはあるでしょうか。色以外あまり気になりませんね。
革の鞄でも財布でもほとんどは糸で縫製してあります。金具やファスナーを使わない製品はあっても糸で縫われていない革製品はほぼないと思います。
秀革堂では布の裏地や紙の芯材などは使わないので革の次にたくさん使うのが糸であり、こだわりの出るところです。
少し詳しく説明します。
革製品に使う糸の種類
通常ポリエステルか麻糸を使うのが一般的です。
ポリエステルで有名なのはビニモです。ビニモは色と太さなどのバリエーションが豊富でミシン縫いから手縫いまで圧倒的に支持されている糸です。
麻糸ではラミーとリネンがよく使われます。ラミーはざっくりとした感じで、シャリシャリ感があります。
リネンは繊細で毛羽立ちが少なく上品に仕上がります。
量産品はポリエステル、高級ブランドもポリエステルがほとんどだと思います。
私が修理したことのあるエルメス、ロエベ、コーチ、ルイビトンなどはどれもポリエステルでした。
一部エルメスなどでは手縫いの製品に麻糸を使っていると聞いたことがあります。
麻糸を使うのは個人の作家さんやハンドメイドを売りにした工房などが多いように思います(手縫いミシン縫いにかかわらず)。
麻糸やポリエステルの糸には手縫い用とミシン用があって撚り(より)が違います。ミシン縫いはZ撚り(左巻)、手縫いにはS撚り(右巻)と一応言われています。
とはいえ手縫いにミシン用を使ってはいけないとかいう事ではありません。
糸の太さ
糸の太さにも製作者の個性がでます。
手縫いであってもミシン縫いのように細い糸で繊細に仕上げる人、タンニン鞣しの厚い革に太めのラミーで大きめのステッチを好む人などさまざまです。
手縫いの場合は縫う前に目打ちという道具で縫穴(菱目)を開けます。決まりではないですが、細かい菱目には細い糸、広い菱目には太い糸が自然に選ばれます。
大抵の糸は0,3、0,4、 0,5、0,6ミリの4種類くらいに太さが分けられています。
秀革堂ではリネンをメインで使用しています。太さは0.3、0,4、0.5ミリの3種類を使い分けています。これはZ撚りです。
鞄と小物で糸の太さを変えています。そのほかビニモの細いものもたまに使います。
これらに蜜蝋を塗って使っています。
なぜ麻糸を使うのか
麻糸はハンドメイドの作家、手縫いの作り手に支持される傾向があるように思います。
秀革堂でもほぼ麻糸しか使いません。
ほぼと書いたのは一部見えない部分でポリエステルを使いたい時があるからです。
ビニモなどのポリエステル糸は麻糸より擦れに強いとされています。コインケースの奥などの切れた場合に修理の難しい場所に使うわけです。
ではなぜ他の部分で麻糸を使うのでしょう。
それは質感が良いからだと思います。革という自然素材に経年劣化しずらいポリエステルなどの素材を組み合わせるとバランスが悪いと感じるからです。
革に味が出るように糸にも味が出てほしいわけです。
また、一部のポリエステル糸は紫外線で退色しやすく逆にバランスが悪くなることもありました。
一方で味の出にくい革もあります。ハイブランドなどでよく使われるクロムなめしの革は、傷もつきにくく、エイジングもほぼしません。
以前はそういった革と組み合わせると少しばかり麻糸の荒さ、毛羽立ち、発色の悪さなどが気になることもありました。
ところがある時期から良質なリネン糸が海外各社から発売されるようになり、キメの細かさ、巻きの安定感、色のバリエーションが一気にアップし、これらの糸は瞬く間に普及しました。
それ以降、革と糸の組み合わせの選択肢が増え、作り手の望むバランスが再現できるようになりました。
秀革堂でも以前は12色だった糸が24色に増え、その後50色を超えました。多くのメーカーのカラーナインナップは80色を超えています。
色々な革と色の組み合わせ楽しめるようになり、色々な革との相性もよくなりました。
今現在、縫製された状態でポリエステル糸とリネン糸の区別はすぐにつかないくらい両者とも高品質です。
リネンが強度的に極端に弱いということもありません。もはや糸選びは製作者の自己満足と言えそうです。
革製品の糸はやはり色以外気にする必要はないのかもしれません。
一応作り手にはこだわりがあるというお話でした。